ワーママのアメリカと日本の子育て

弁護士の子育てサバイバル日記

スパイする権利

イスラエルの学者による、「Rights to Spy」というセミナーに参加した。彼によれば、スパイする権利が認められているからこそ、大戦争を防止できているのだという。実際、例えば冷戦中のアメリカとソ連との間の協定では、明示的にスパイを相互に認める規定があったそうだ。つまり、お互い情報を得ているからこそ無理をしない、ということだ。

 

国家によるスパイ活動で、少し笑ってしまうユニークなエピソードは、東ティモールとオーストラリアとの間の紛争だ。

 

東ティモールはインドネシアから独立したものの、国力がなく大統領府を建てる建設会社もない。そこでお隣りの大国、オーストラリアに支援を依頼し、オーストラリアの会社が大統領府を建設した。

 

が、大統領府の壁の裏側には盗聴器が設置されていた。オーストラリアが協力したのは、東ティモール沖にある油田の情報を入手したかったからだった。

 

間もなくして、東ティモールは油田を発見したが、これを海底から掘削する技術がない。そこで、やはりお隣りの大国、オーストラリアに助けを再び求めた。オーストラリアは、この情報をいち早く入手し、油田に関する権利を相当有利な形で手に入れた。何しろ、東ティモール側の交渉戦略は全て筒抜けだったのだ。。。

 

これに気付いた東ティモールは怒り、オーストラリアとの契約に基づき仲裁を申し立てるも、仲裁で東ティモールのために戦うスキルのある弁護士がいない。そこで、オーストラリアの弁護士を雇った。。。そして、当然負けた。弁護士に提供した証拠書類は、全てオーストラリア側に共有されていたのだった。

 

さらに怒った東ティモールは、ハーグの国際司法裁判所に訴えを提起した。今回は、フランスの弁護士を雇ったそうだ。

 

スパイ容疑と油田に対する権利侵害が主な内容だが、争点の一つとして、attorney-client privilege(弁護士・依頼者間の秘匿特権)の侵害というのがあった。つまり、オーストラリアの弁護士と東ティモールとの間のコミュニケーションはこの秘匿特権で守られるはずなのに、オーストラリアがこれを侵害したというのである。仲裁で負けたのも、このせいだという。

 

が、ここでアメリカが介入する。なぜなら、このような特権の侵害行為は、アメリカのスパイの常套手段で、何十年(何百年?)もやってきたことであり、国際司法裁判所に正式に否定されれしまうと困るからだ。

 

スパイする権利があるとしても、濫用してはいけない。オーストラリアは、自国の利益のために濫用したといえるのだろうか。油田といった経済的利益ではなく、国家安全のためならば正当化できるのだろうか。

 

例えば、途上国支援と称してワクチンを提供し、血液検査をしてその国の国民のデータを集めることは、スパイでも何でもないように思える。どちらかというと、個人情報保護の問題。ただ現実は、特にイスラム圏の国を対象に、テロ対策のためのスパイ活動として血液の収集が正当化されているらしい。国家安全のため、ということだろう。

 

スパイ活動を規制すべき、という指摘はもっともだが、スパイという行為は性質上国境を越えるものなので、なかなか国内での規制ではカバーできず、かといって国際機関主導で各国が容易に合意できるものでもなく、相当難しい。

 

さらにいえば、行為主体が国家なのか私人なのか、という問題もある。スパイなのかパパラッチなのか。

 

ジョージ・クルーニーが人工衛星を打ち上げて映像を収集し、スーダンでの人権侵害の証拠を集めたのは、スーダンから見ればスパイ活動なのだろうか。個人がよかれと思ってやったことで、国家の行為じゃないからスパイじゃないといえるだろうか。目的が人権的だったら許されるのだろうか。。。人権的かどうか、誰が判断するのだろうか。。。

 

スパイなんて映画の世界の存在で、何となくかっこいいと思っていたが、今は隣りに座っている人がスパイだったりして、、、と冗談でなく思えたりする(冗談です笑)。そういえば、イスラエルでは女性にも兵役義務があり、アメリカでいうところのCIA出身の弁護士がいたな。。。

 

答えは出ないまま家に帰宅し、息子がスパイになりたい、って言ったらどうしよう、いや、スパイになるなら事前に親に相談しないか、と考え直しながら、昨日借りてきたMr. Incredible(ディズニーの映画)を息子と見ていた。