ワーママのアメリカと日本の子育て

弁護士の子育てサバイバル日記

質問力と自己肯定感

ハーバードロースクールでは、年度の終わりに、卒業生への最後のレクチャーとして、有名な教授によるランチトークがある。会場はとにかく人、人、人。特にブリトーをただでゲットしようとしている学生たちでごった返しており(ピザは脂っこくてNGだけどブリトーはヘルシーという共通認識があり人気だ)、私もせめて座る席は確保したいと人混みをかき分け何とか座った。

 

Minow教授は憲法の先生で、ハーバードローのDeanもつとめたことのある大物教授だ。彼女は、Deanとしての経験を、まるでたくさんの蜂を引っ張っていくようだったと話していた。

 

リーダーシップには三種類あるといわれており、カウボーイ(困難に率先して挑戦する)、羊使い(迷える子羊を誘導する)、そして蜂。Minow教授がいうには、ハーバードの教授陣も学生も、使命を承知した蜂のように個々に自分が進むべき道がわかっており、彼女もただその一員として自分の使命を果たしていっただけだったそうだ。

 

そんな彼女の気付きは「right question」に遡る。いい質問によって、今まで気付かなかった解決策が見えてくる。質問には、現状を変えるパワーがある。

 

素敵だなぁと思うと同時に、「正しい」質問、「いい」質問といわれると、何だかかえって質問しづらくなっちゃうんだよなーーなんて考えていた。アメリカの教育って、質問しただけで「good question」と誉められるのだけれど、私はただわからないから聞いているだけで、いい質問も何もない。わからないのが誉められている気もして、違和感がある。

 

そうつぶやいていると、シンガポール人が、「卒業生っていうより、これからロースクールの授業を受けようとする人に向けた言葉みたい。たくさん質問しろ、って言っても、社会に出たら上司にそんなにいちいち質問できないよねぇ。」なんて言っていて、二人で目を合わせて笑ってしまった。

 

現状に疑問を持つということはもちろん大切で、それが原動力になる。

 

例えば、Asia Americanは、黒人やヒスパニック比べると、れっきとした差別はあるものの、アメリカの議論の場であまりフィーチャーされることは少ない。平均収入が高いから保護の必要性が低い、とよくいわれるのだが(統計的には白人の平均収入よりも高い)、本当にそうだろうか。アジアといっても色んな国があり、比較的収入が高めなのは東アジアで、実は東南アジア出身の人たちは、ヒスパニックや黒人よりも過酷な状況におかれている。彼らはinvisibleで、政策の話題にもあがらない。議論の対象にすらなっていない人たちがいるのだ。

 

この事実が原動力になって国会議員になったアジア系アメリカ人(中国系)に、フルブライトのイベントでお話を伺った。彼は、平均収入を示したグラフの内訳を質問した。おかしいと思って、アジア系アメリカ人を、母国別に分類した。そこで初めて、invisibleだった人たちの存在が明らかになった。彼の質問によって、政治が動いた。

 

他にも、「アジア系」で一括りにされる問題としてはヘルスケアがあり、一般的にアジア料理はヘルシーだと思われていることもあり、要保護認定を受けにくいそうだ。例えば、アジア系は心臓発作が少ない、という主張があり、中国系には当てはまらないのでおかしいと思って質問してみると、根拠として使われているデータが日系アメリカ人のみのデータだったそうだ。日本人は比較的心臓発作が他の人種よりも少ないだけであって、これを全てのアジア系アメリカ人に当てはまるとするのは間違っている。おかしいと思ったらそこを疑い、質問し、正していく。

 

ただ、アメリカから見ればアジアは全部一緒なので(特に日本、韓国、中国)、このバイアスを除いていくのが大変なのだそうだ。

 

おもしろかったのは、アジア系アメリカ人の国会議員が人口の割に少ない理由。それは、母国に選挙制度がないか、あっても形だけで、概念として「選挙に行く」、「選挙で政治を変える」という発想があまりないからだそうだ。例外はインドで、ガンジーが選挙権のために戦った歴史もあり、ずば抜けて投票率が高いらしい。

 

アジア系といえば、アジア系のスケート選手(オリンピックメダリスト)がハーバードロー主催の講演で言っていたのは、彼女はメダルを取ったとき、「何で私が?!」ではなく、「私がやったぞ!」と思ったそうだ。スケートは他のチームスポーツと違って性格が内向的になりやすいそうなのだが、彼女は外に発信するため、メダリストになった後も挑戦を続け、フレッチャースクールにも通った。

 

彼女の原動力は、人種に関わらず、「自分はできる」という自己肯定感。周り回って、とにかく質問でも何でも誉めまくるアメリカ流の教育は、自己肯定感を形成し、結構いいかもと思えてきた。

 

そういえば一昨日、息子が「The Magic of Confidence」という絵本を保育園から借りてきた。おまじないを唱えたらプレゼンがうまくいくのだが、実はそのおまじないは魔法でも何でもなく、自分の力で、自分一人でできたんだよ、というストーリー。おぉこうやって4歳の頃から自信を持ちましょう、自分の力でやりましょう、と教育するのかと興味深かった。しかもプレゼンが成功する、というのも4歳児とは思えない設定。何なら魔法でもいいからその自信私もほしい笑

 

質問力と自己肯定感。もちろんアメリカの教育方法が全てではないけれど、人の原動力となるパワーがある。今からでも遅くないかしら。でも質問いっぱいしたら、日本の上司は何と言うかしら笑