ワーママのアメリカと日本の子育て

弁護士の子育てサバイバル日記

ハーバードの卒業式

卒業式を英語ではcommencement(直訳だと「始まり」)という。何だかお洒落で素敵な言い方だ。今年のメインゲストはメルケル首相、と私の両親(笑)。

 

この卒業式の一週間はハーバード一帯がお祭り騒ぎなのだが、我が家は割と我関せずで、私も両親が英語わからなくても楽しめるようにバイリンガルの地図を作ったり(夫に縮尺違いすぎと言われたが)、ボストン観光コースを調べたりしており、卒業式自体を心待ちにウキウキという感じではなくコツコツ事務作業をしていた。ハーバード付近のレストランはどこも予約でいっぱいで、これはもう狭くても、40平米しかなくても、家で食べるしかないと、近くのシーフード店でロブスターを買うことにした。

 

卒業式当日、我が偉大なる両親は初めてUberを使い、たまたま宿泊していたホテルの前が工事中だったためドライバーとうまく合流できなかったそうだ。何度もドライバーからドタキャンされたり電話がかかってきたりしたようで、英語がそんなに話せない両親大層Uberへの不信感を高めた。とりわけ慌てふためいた一家の大黒柱だった父は、ドライバーから電話ががかかってくると、この卒業式のために英会話教室Gabaに通い始めた母に(母偉い!)、電子レンジであたためすぎたサツマイモのように携帯電話を投げ渡し、「Gaba、電話でて!」と言い捨てて、なんとトイレに行ってしまい姿を消したらしい(笑)。

 

そんなトラブルがありつつも約束の一時間前に集合場所に到着した両親と合流し、息苦しいほど人が多過ぎる渦の中へ。

 

卒業式自体は何だかちょっと宗教色が濃くて違和感があったのだが、ハーバードの投資先に非人道的な事業があるとかで(動物愛護系?よくわからない)、その抗議文言を角帽の上に張ったり、式典中に立ち上がって叫んだり、日本では考えられない雰囲気だった。私は相変わらず圧倒されるばかりだったが、とにかくスピーチがとても素晴らしかった。

 

ある彫刻家が作品を売り出したところ全然売れないので、仕方なく値下げしたところ、通りがけの人が「こうしなきゃだめだ」と元の値段の倍の値札に付け替えたところ、すぐに売れたという話から、「私たちはモノそのものより値札を見てしまいがちではないか。法律家として、本質を理解して社会問題を解決していかなければならない」とスピーチしていたロースクールの学生。この、法律家を社会問題を解決するアクターとして位置付けるところ、弁護士を目指した高校生の自分が思い出され、背筋がのびます。。。

 

アルジェリアからフランスへの移住の募集があったとき、長蛇の列に並んだものの自分の名前が書けず諦めて帰ったところを見た人が、代わりに名前を代筆してくれたお陰でフランスで教育を受けることができ、そして今日、ハーバードケネディスクールを卒業することができた、こんな小さなことが人の一生を変える、だから「Ask what you can least to do」、とエピソードを話してくれた学生。

 

ケネディスクールのスローガンが「Ask what you can do」なのと重なり、大きなことをやろうと肩肘張らなくても、自分ができることをやれば、それが小さなことであっても、大きな変化につながるんだと思えた素敵なスピーチだった。

 

メルケル首相も、ドイツ語だったので全然わからなかったが(あえて英語を使わなかったことに意気込みを感じる)、私が英訳を理解した範囲では、彼女はいつも正しいことをしているか自問自答していて、「正しいからやっているのか、できるからやっているだけなのか」をよく考えろ、ということだった。そして、不変なものなんて何もないのだから、ベルリンの壁だって崩壊したのだから、自分を超えていけ、とエールを送ってくれた。

 

社会に出て、「正しいことを正しいと言っても伝わらない」ということを学んだが、留学をして、「そもそも正しいことは一つではない、それぞれの正解がある」ということを学んだ。正義感が揺らぐと、とりあえずできることをやっているとcomfortableだし立ち返ることも面倒になってそのままだらだらやり続けしまうが、メルケル首相の力強い言葉(ドイツ語の語感もあるかも)は、一国のリーダーとしてだけでなく、もっと身近に、私たち一人一人が日々を変えていく原動力になる気がした。

 

卒業式のイベントは朝の6時半から始まっていて、ロースクール生は裁判官が持っている小槌のようなハンマーを持って行進する(なお、裁判所といえば「コンコン」と木槌を鳴らしているイメージを持っている人が多いが、日本の裁判所には木槌はない)。全員に配布されるこのハンマー、木製のはずもなくプラスチックでできており、かなり安っぽい。我が家ではあっという間に息子のおもちゃになり、地面を叩きすぎてガサガサになった。

 

メディカルスクールは聴診器(これもおもちゃによさそう)、ケネディスクールは地球儀(ビーチボールとして使えそう)、教育はノート(遠目でよくわからなかったがどうやら数学や化学の計算式が書いてあるらしく、後ろに座っていたロースクール生が「彼らって、数学や化学が一番嫌いな科目なんじゃないの」と皮肉っていた、、、)、デザインスクールはレゴブロック(一番カラフルでかわいい)、とそれぞれの大学院を象徴するアイテムを持っている。私の一番のお気に入りはextention school(夜間学校)の魔法のランプ。夜中に勉強するので、光を得るための油を注ぐランプが象徴となっている。

 

ハイライトである卒業証書授与式では、ママさん学生としてDeenから息子と一緒にdiplomaを受け取りつつ、友人との写真もほどほどにして、家族のもとへ。本当に一年間、ありがとうございました。

 

両親も生まれて初めてのボストン滞在を楽しんでくれたようで、帰国後「まさに珍道中でした」とのメッセージ。ん??私もいたし、私がいないときは夫がいたし、特に「珍」な要素はなかったはずなのですが(笑)。

 


直前の週末はボストンにもまさかもう夏がきたのかと思うくらい暑くなったが、当日は拍子抜けするほど寒かった。冷え性の私はつま先まで凍りついた。お陰様で、疲れもたまって風邪引きました笑。