ワーママのアメリカと日本の子育て

弁護士の子育てサバイバル日記

ビジネスと人権

秋学期に、ビジネスと人権、というWorkshopに参加していた。会社の取締役は、基本的に「株主の利益を最大化するために頑張る!」というのがルールだが、そこにHuman Rightsの概念を持ち込めないか、ということを研究している。

 

わかりやすいのが資源開発。カナダの会社が南米で資源開発を行い、現地の環境が破壊され、家が川に流されてしまったら。汚染物質が垂れ流しになっていたら。多くの場合、カナダでの規制よりもローカルの規制は緩く、カナダの会社に法令違反はない。また、カナダの会社は現地法人を設立しており、何か責任があるとしてもそれは現地法人で、カナダの会社は親会社(株主)にすぎず、現地法人の責任を直接負うことはない(親子会社でもあくまで別法人で、株主は有限責任(=出資額が限度)しか負わないため)。

 

法令違反がないとなると、責任追及は難しい。しかも、この件は国をまたいでいるのでさらにややこしい。現地の裁判所は信頼できないand/or時間がかかりすぎる上、勝ったとしても、現地法人には資産がなく、きっと賠償額を払えない。違う国の裁判所の判決をカナダで執行するのもほぼ不可能。じゃぁお金持ちのカナダの親会社をカナダで訴えるのはどうかというと、まずカナダの親会社自身の違法行為を見つけなければならないし、そもそも現地の人たちが言語も違う国で弁護士を雇ってはるばるカナダで訴訟するなんて、非現実的だ。でも、この資源開発をやろうと決めたのはカナダの親会社の取締役であることは間違いない。。。

 

さらに、取締役の判断は、「経営判断の原則」というルールで守られている。取締役は、時にリスクのある判断をしなければならないこともあり、結果的に失敗したからってその責任を全部とらせてしまうと、取締役が萎縮して適切な判断ができない。それはかえって株主の利益にならない。だから、取締役には一定の裁量を認めよう、というのが背景だ。

 

なので、違法じゃなければ取締役は裁量をもって判断できる。これを、Human Rightsの観点から、どうにかして制限できないだろうか、、、

 

日本でも一時期、CSR(Corporate Social Reaponsibility)だとかSRI(Social Responsibility Investment)などが流行っていた。日本の会社法は、アメリカとは異なり(主にデラウェア法)、株主だけでなく、債権者や従業員、取引先など広くステークホルダーの利益を考えよう、という傾向にあるので、取締役の判断基準として、Social WelfareやHuman Rightsの観点も取り入れやすいように思う。また、会社のレピュテーションというベールを通して、間接的にであれ人権侵害がないかを考慮しているように思う。

 

他にも、例えば「IPと人権」という組み合わせもある。製薬会社は、開発費を薬の特許権ビジネスで回収する。ということは、薬代がそれなりに高くなるということで、貧富の格差が薬へのアクセシビリティに影響する。他方、製薬会社も投資が回収できる見込みがなければ薬の研究はできない。ここに政府が介入すればいいのではないか(補助金など)、というのが簡単な答えだが、開発途上国の政府にはそんな資金はなく、アメリカも健康保険制度はボロボロな上政府の介入を嫌うため、結局アクセシビリティの問題は解決されていない。

 

他にも著作権が反映するのは書籍代。貧しい人にも教育を、というとテキスト代が結構問題になるのだが、著作者だって、これで食べているのでなかなか線引きが難しい。なお、日本の著作権法には、教育目的の利用については例外規定がある。

 

日本だと郵政民営化など、民営化はムダをなくすいいことみたいな印象があるが、日本が戦後高度経済成長を遂げた背景には、集権的な強い政府があったことも理由の一つ。状況によっては政府がやる方がいいこともある。例えば、ボリビアで水道事業を民営化したら、水道料金が300%値上がりして、water warといわれる暴動が起こったそうだ。民営化を決断した政府、水道料金の値上げを決定した取締役に、Human Rightsに関して何か指標となるような基準を提示できていたら、状況は変わっていただろうか、、、

 

ビジネスと人権というのは、ちょっとした流行りにもなっていて、アメリカの法律事務所もプロボノで協力していたりする。とにかく彼らは、最近何でも組み合わせている(FinTechとかLegalTechとか)。笑

 

世界的にも条約締結に向けた動きもあり、そのドラフトとして、zero draftといわれる条約案がエクアドルと南アフリカから提出された、という経緯も興味深い。おそらく多国籍企業の被害国ということなのだろうが、自国にも人権問題を抱えているので、諸刃の剣だ。中国もPRのためか対外的には協力的な一方(エクアドルや南アフリカのみでzero draftを完成させたとは思えない完成度であり、中国が自国に有利になるように関与していたという噂)、アメリカ・カナダ・EUは反対しているという。

 

なお、最初のカナダの会社の件については、NGOの協力のもと、カナダで訴訟係属中とのことだ。アメリカやカナダは、加害者であると同時に救済者にもなる、不思議な国だ。