ワーママのアメリカと日本の子育て

弁護士の子育てサバイバル日記

トランプと憲法

ハーバードといえば憲法、といわれるくらい、ハーバードロースクールには超有名な憲法学者が揃っている。

 

今学期は、「トランプが大統領になったおかげで、アメリカ国民が憲法の重要性を再認識してくれた。憲法学者としてこんなに光栄なことはない」と皮肉たっぷりのジョークをびゅんびゅっん飛ばす教授の授業を履修している(たまに皮肉すぎて笑うポイントがよくわからない笑)。

 

三権分立のもとでは、司法は政治とは距離を置き、最後の砦として判断を下す、というのが建て前だ。しかしアメリカでは、政治抜きに司法は語れない。

 

例えば、オバマケア。日本のように国民全員が加入する健康保険が存在しないアメリカでは、個人で健康保険を購入する必要がある。すると、金持ちは自分で健康保険に加入できるけれど、貧しい人は無保険のままになる。そこで、Medicaid programというのが設立され、一定の無保険者の保護がはかられた。

 

しかしながら、Medicaidの条件を満たすほど貧しくないものの、自分で保険を買うほど裕福でもない人(アメリカの健康保険は本当に高額。日本の健康保険制度は、色々批判されているが世界に誇れるレベルだと思う。)というのが、実は多数派。彼らは、病気になってから慌てて健康保険に入ろうとするが、既往症がある人は、保険にそもそも加入できないか、加入できたとしても保険料がべらぼうに高くなる。

 

そこで、オバマケアの登場。簡単にいうと、元気なうちに、国民全員が健康保険に入ることを義務付けるものだ。さっそく反対派が訴訟提起。その早さを考えると、法的論点というよりは、政治的論点を裁判所に持ち込んだような印象だ。

 

最高裁判所は、ものすごくテクニカルな議論でオバマケアは合憲だと判断した。学生から、「立法趣旨も合理的だし、連邦政府は、国民に健康保険を義務付ける権限を持っていることは明らかだ」との意見が出ると、教授はこう質問した。

 

「オバマじゃなくてトランプだったら?」

 

その学生は、笑いながら"Definitely not!"と言っていた。もっとも実際は、トランプの場合もトランプが勝っている。

 

例えば、トランプはExecutive Orderを発令して、特定の国からアメリカへの入国を規制した。このターゲットとなった国は、イスラム圏が主だったため、イスラム教徒への差別だと訴訟になったが、トランプ側の勝訴。

 

勝訴の理由は、規制対象にイスラム圏の全ての国が含まれていなかったことなどだが、例えばイスラム圏の大国サウジアラビアが除外されたのは、同国がアメリカのいいお客さんだからだといわれている(例えば、アメリカから武器を大量に購入している)。むしろ、大統領選のときの「イスラム排除」といった公約を果たしつつ、アメリカ経済への影響の少ないイスラム圏の国をピックアップし、さらに形式的に北朝鮮など非イスラム圏の国を加えて客観性を維持しようと試み、それが成功したともいえる。

 

みんなトランプがイスラム教徒を排除しようとしたとわかっているのに、憲法の理論では救えない。

 

この宗教の自由が定められている修正1条は、言論の自由も定めている。もっとも、さすがにトランプといえども、NY Timesの記者をトランプを批判する記事を書いたからといって、その記者を牢屋に入れることはできない。

 

何ができるかといえば、マスメディアを通さず直接有権者にソーシャルメディアを利用して訴えかけたり(小さな嘘も大きな嘘もフェイクニュースも)、メディアを持っている会社の合併に介入したりするなどだ(有名なのはWashington Post。介入自体は合法にできる。)。

 

他にも、個人と国家の線引きがなく、例えばフィリピンに行ってドュテルテ大統領に会ったときも、ついでに自分の不動産事業の現地パートナーであるフィリピン人とも商談したそうだ(違法とまではいえない)。

 

相手を批判するときも個人攻撃で、裁判についても、判決ではなく裁判官個人を攻撃したのは、歴代初だそうだ(しかも論理ではなく、オバマ時代に選任されたからダメだ、みたいな)。これも、トランプ自身の言論の自由の範囲内ということだろうか。

 

トランプの全てを否定するわけではないが(実際株価上がってるしドル高だし。円高期待してたのにな、、、)、トランプは、法律の限界を突きつけてくる歴史に残る偉大な大統領である。