ワーママのアメリカと日本の子育て

弁護士の子育てサバイバル日記

モンテッソーリ

モンテッソーリ教育、というと、日本ではお金持ちの私立かインターナショナルスクールがやっているイメージの、「良さそうな教育方法」といったくらいの認知度だろうか。イタリアでマリア・モンテッソーリが100年以上前にはじめた教育方法が、アメリカでは、オバマがモンテッソーリ教育を受けていたということで大ブームになり、私立公立問わずあちこちで実践されている。

 

ただ、大ブームの反動で「なんちゃってモンテッソーリ」というのも横行しており、inspired by Montessoriと書いてあったら要注意だ。モンテッソーリを歌っていても全く違うことをやっている園も多いのだ。保育園を下見せずに決めなければならないから、「良さそう」なモンテッソーリ園に通わせるのがいいのではないかと思ったものの、結局ホームページなどに頼らざるを得ない。そこで我が家は、American Montessori Society (AMS)のメンバーとなっている保育園から、シカゴのダウンタウンエリアにある園を選ぶことにした。

 

ボストンでのママ友から、モンテッソーリ園は入園前に面接があるよ、と事前に聞いていたものの、「シカゴに面接に来い」とメールが来たときは驚いた。慌てて事情を説明し、電話面談にしてもらったが、ネイティヴではない私としては、電話面談ほど緊張するものはない。ボストンとシカゴの時差を何度も確認しながら、緊張して電話を握りしめて時間まで待っていた。

 

内容はよくあるQAではあったのだが、園側の受け答えがとてもしっかりしていてすごく印象がよかった。それに、ボストンの保育園と違ってメールの返信なども早く、スムーズにコミュニケーションできていたのもよかった。こちらが面談されているのか、私たちが面談しているかよくわからなかったが(笑)。ここなら安心と思い、他は応募しなかった。

 

いざ入ってみると、それはまぁ厳格なモンテッソーリ園で(笑)、キャラクターもの禁止、教室の見学は外の窓からのみ(子どもの集中力が妨げられるため)、午前中は「お仕事」の時間、午後は「アクティビティの時間」ときっちり分けられ、担当講師も異なる。親子で教室に必要なものを揃える課題もあり、全員分のイチゴやらオレンジ、ワッフルなどの食材(ナッツフリー厳守!)、トイレットペーパーやウェットティッシュなどの日用品まで、大量に購入して保育園に持って行かなければならない。あまりに大量で、複数回回ってくるので、授業料少し上げてもいいから、保育園でよしなに買ってくれ、、、と思ってしまった。他のお母さんも、「スーパーに一緒に行くっていう趣旨かもしれないけど、Amazonでポチッよね」と笑っていた。

 

息子もこれまでのゆるふわ先生と違う厳しい先生を目の当たりにして、「僕は大きいから、学校ではみんなの見本にならないといけない」とちょっと緊張してストレスを感じてるようではあったのだが、「でも家ではふざけたり甘えたりしていいんだよね」と上手く中と外を切り分けているようだった。そして、想像以上に、モンテッソーリの特徴である「お仕事」が息子にはまったようで、気付いたら4歳で4桁の足し算引き算をやっていた。そういえば、ボストンでの友人も、保育園をモンテッソーリ園に変えたら、5歳で、8歳用の字がいっぱいで絵のない本を読むようになったと言っていた。年齢関係なく、才能をどんどんのばしていくこの環境はすごい。ただ、あわないとちょっと窮屈で子どもは嫌がるかもしれない。

 

「お仕事」というのは、何か一つの目的のために作られた教材で、例えば、指先の器用さを高めるために豆粒をひたすら他の皿に移したり、言語であれば単語と絵を組合せたり、、、といったものがある。多目的ではなく、一つの目的で、一つの仕事に集中する、というのがポイントだそう。4-5才児が、黙々と個々に別々のお仕事をやっている光景は、何だか子どもらしくない気もしてちょっとびっくりだった。なお、他のお友だちと何かを一緒にやったりするソーシャルスキルは、午後の「アクティビティの時間」の範疇だそうだ。

 

今後に向けて、ということで保護者会があったのだが、6歳以降は、何で何でと質問責めだったwhyの時期から、「どうやって」と結果だけでなくプロセスに注目したり、それを自分でやってみるための問いであるhowの時期に移行するそうだ。そして、「ヒーロー観念、想像力、公平性」の敏感期らしい。

 

ヒーロー観念というのは、スパイダーマンなどのいわゆるスーパーヒーローではなく(キャラクターもの禁止だしね)、歴史上の人物などをいうらしい。家族に尊敬する人を聞いた後、その人たちについてみんなで調べ、共通する部分を抽出してまとめる。これは抽象化の訓練にもなるらしい。そして、抽出した事項が自分にも当てはまる!僕もヒーローだ!と、子どもたちは大喜びだそうだ。なお、お父さんの請け売りかなんかで、「尊敬する人はウォーレン・バフェットだ」(アメリカの超金持ちの投資家)と言った子がいたらしい(笑)。

 

想像力の敏感期は、今目の前にないものでも言葉でそれを想像したり、他人の立場にたってものごとを考えたりすることができるようになる時期をいう。言葉だけで世界一周旅行をしたり、毎朝のミーティングで誰かに感謝を述べたりすることができるようになる(自分も言われたら嬉しいからありがとうと言う)。

 

そして、公平性や正義感。正しいことは正しく、間違っていることは間違っていると、はっきりと白黒をつけたがる時期。この園では、もめ事が起こると、模擬裁判のようなことをやるそうだ。原告・被告、裁判官、陪審員、それに弁護士も加わって、結構本格的らしい。6歳の正義感で、自分の主張をする。パブリック・スピーキングのスキルはこうやってのびる。なんともアメリカらしい。

 

モンテッソーリ園では、子どもたち自身が課題を見つけていくのが原則なので、テストや成績表などは小学校でもない。それはそれで不安な気もするが。もちろん、年齢に応じて学ばなければならない項目というのはあるので、先生が誘導する(例えば、会話でなるべく長い単語を使って、子どものボキャブラリーを増やす)ことはあるが、先生曰わく、子どもたちが色々思いついて提案してくれるので、その必要はほとんどないらしい。

 

朝のミーティングでは、①天気と②誰かへの感謝、③困っていることを議題として設定しているそうなのだが、①天気について話しているうちに、毎日記録をとろうということになり、子どもたちの提案で、月ごとに晴れの日が何日か、雨はどれだけ降ったかなど、データをまとめているそうだ。また、かわいい提案として④Fish of the day(今日の魚)というコーナーが最近できたそうで、金魚などの身近な魚だけでなく、図鑑を見ながら難しい名前の魚を選んだりしているそうだ。

 

実際にモンテッソーリ園に通い、「良さそう」なお金持ち保育園といったイメージから、もっと具体的な良さがわかってくるようになった。息子の意外な一面にも気付かさせてくれた。

 

日本では、保育園は両親共働きでないと入れないが、両親共働きかどうか関係なく、保育園に週1回でも通えるようになったらいいのではないかと思う。モンテッソーリに限らず、外に出ると、どんな年齢の子どもでも、親からは見えない発見がある。もっと日本でも、みんなに開かれた教育があるといいな。